■株主価値からみた配当の本質
「配当とは、企業が株主に対して利益の一部を配分すること」といわれます。こう書くと「株主が企業から配当という形で利益の一部を分けてもらっている」という印象を受けます。しかし企業が得た「利益」という経済価値は、そもそも株主に帰属します。よって配当とは、株主が株主自身の持分の一部を、配当という形で手元に引き出しているにすぎません。配当によってキャッシュアウトした分だけ株主価値は減少し理論株価(=株主価値÷発行済み株式総数)は下がります。
「復配」や「増配」のニュースがきっかけで、株価が上昇することがあります。これは企業が事業活動により生み出すキャッシュフローが回復あるいは増加したことによって、復配あるいは増配を行えるようになったという背景があってのことです。すなわち今後事業活動から生み出されるキャッシュフローの増加⇒企業価値や株主価値の増加⇒株価上昇という関係です。配当を出す企業が良い企業で株価が上昇し、配当を出さない企業が悪い企業で株価が下落するという単純な理屈ではありません。
■配当と企業の成長ステージ
投資家が企業の配当政策を評価するためには、その企業がどのステージにあるのかを把握しておくことが重要です。
今後、企業の規模や利益が伸びると予想される成長期の企業においては、より収益を生み出してくれる事業や設備への投資に資金を配分すべきです。有効な投資案件があるにもかかわらず、株主から集めた資金を配当によって株主に戻すことは、株主還元ではなく高い成長率を期待して投資した株主から、株主価値の増大というリターンを得る機会を奪う行為です。もし配当により不足した資金を借入によって賄うような本末転倒な資本調達が行われれば、株主が得るはずであった価値が、債権者に移転してしまう事になります。
一方で既に多額の余剰資金を保有し、安定したキャッシュフローを生み出せる企業においては、有効な投資先のない余剰資金は、「価値>価格」の割安な状況では自社株買いで、「価値<価格」の割高な状態では配当によって、株主に還元されるべきです。株主としても企業に投資した資金が、預貯金のような形で寝かされているのは本意ではありません。
また投資家として株主価値創造の恩恵を配当という形で享受したいということであれば、ある程度継続的に安定したキャッシュフローを生み出すことが予測される安定期にある企業が好ましい投資先であるといえます。
■株主優待について
株主優待では、その企業の商品やサービスが株主に分配されます。企業としては商品やサービスを株主に還元することで、その時点でのキャッシュアウトは避けられます。しかし同時に、その商品やサービスが将来生み出すはずであったキャッシュフローを失うことになります。優待制度の実施に掛かるコストと合わせて、結果的に企業の収益と株主価値に影響を及ぼします。よって株主優待が行われることによって、そのコスト分の株主価値が低下し、長期的には株価の下落要因となります。
優待制度に将来の見込み客増、自社商品のアピールといった効果があり、優待制度実施に掛かるコストを上回る将来キャッシュフローの増加が見込めるのであれば、その評価は逆になります。
個人株主数の増加を狙って、株主優待制度を導入する企業が増える一方で、増えた個人株主に対して優待制度を行うことのコスト増を理由に、株主優待制度を廃止する企業があることは少々皮肉な現象といえます。
株主優待が現在の株主価値あるいは将来の株主価値の一部を使って行われている以上、投資家の間には不公平感が生まれます。例えば日本に居住していない外国人投資家にとって、日本にいなければ受けることのできないサービスや商品を対象とした優待は、同じようにコストを負担しているにも関わらずまったく価値の無い不公平なものです。近隣に優待の対象となるサービスを提供する店舗が無い、必要の無い商品が送られてくるという意味では、一般の個人投資家にも同様の事がいえます。
またファンドを運用する機関投資家は、投資家より預かった資金を運用している以上、受け取った優待が商品であれサービスであれ、資金を提供した投資家に帰属するものを勝手に利用するわけにもいかず、その処分に困ります。そのファンドを通じて企業に間接的に投資している投資家は、処分される株主優待のコストだけでなく、機関投資家が処分するのに掛かったコストも手数料という形で負担しなければなりません。
株主優待の中には、株主でなければ手に入らない商品やサービスというものも存在します。こうした優待は、その商品・サービスあるいはその企業自体のファンにとっては魅力的でしょう。しかし優待だけを目的とした売買によって形成された株価は、価値を伴わない一時的なものとなります。投資対象として見るときは、その企業の価値と価格の把握に加えて、経営者の資金分配の意図(株主への還元や企業価値向上のためなのか、それとも企業の価値に興味のない安定株主を増やすことによる企業時価向上のためなのか)にも気を配る必要があります。
配当の多寡や株主優待が、投資判断の全てを左右するわけではありませんが、その経済的な背景は理解しておいた方が、企業価値あるいは経営者の経営判断を評価する上で参考になります。